
2024年度診療報酬改定において「身体的拘束を最小化する取り組みの強化」が規定され、医療機関は身体拘束についてより厳しく向き合うことが求められるようになりました。そんななか一歩先んじて身体拘束の最小化に力を入れている病院があります。2023年から取り組みを開始した蘇生会総合病院のケースから身体拘束の最小化に向けた取り組みの実際をみていきましょう。

身体拘束最小化チームのメンバー。(左から)渡辺範雄医師、中島聡子看護副部長、中辻葵看護主任、坂本陽子栄養管理科係長、井口聡リハビリテーション科科長
医療機関での身体拘束は、その患者さんまたは他の患者さんの生命や身体の保護上緊急でやむを得ない場合に「本人の尊厳を守るため」に行われるものとされています。その際には「切迫性」「非代替性」「一時性」という3つの要件*1を満たすかどうかを確認したうえで慎重に判断することが求められます。
2022年度入院・外来医療等における実態調査(中央社会保険医療協議会診療報酬調査専門組織)によると、身体拘束の実施率は0〜 10%未満の病棟・病室がほとんどですが、一方で50%を超えるところも一定数存在することがわかっています。そして2024年度診療報酬改定で、入院料通則の改定が実施されました。それが「身体的拘束を最小化する取り組みの強化」。身体拘束を最小化するための体制整備が施設基準に加えられました。基準は表のとおりで、これらを満たさない保険医療機関*2は入院基本料が減算されます(1日につき40点)。2025年6月から適用になります。

身体拘束を最小化するための蘇生会総合病院の取り組み
蘇生会総合病院が身体拘束について見直しを図ることになったのは認知症ケアリンクナース会の活動から。 2023年のことでした。
「この会は看護部内の委員会の1つ。各病棟に配置したリンクナースが認知症やせん妄についての勉強会や情報共有を月1回行っており、臨床での困りごとなども話し合います。そのなかで身体拘束が取り上げられることが多くなり、課題解決のために他職種の協力を仰ぐ必要が出てきました。そこで病院長や安全管理委員会などにはかり、身体拘束最小化チーム(以下、最小化チーム)が誕生しました」
看護副部長の中島聡子さんはこのように話し、医師をはじめ多職種の理解と協力により速やかにチームが組織できたのは、同院が培ってきた多職種連携の文化によるところが大きいとしました。




身体拘束最小化チームは週に1回各病棟をラウンドして、対象となる患者さんについての情報を確認し、時にはミニカンファレンスも行う。輪番制で認知症ケアリンクナースも同行する
最小化チームは、精神科医師、看護師、栄養士、理学療法士、薬剤師などで構成されています。「事前に身体拘束カンファレンス記録で確認した情報をメンバーで共有・評価し、週に1回対象患者さんのラウンドを実施しています。各病棟では身体拘束の適正性や解除方法の有無を含め病棟看護師とともにさらに評価・検討します」と話すのは看護主任で認知症看護特定認定看護師の中辻葵さん。認知症ケアチームの一員で、最小化チームのメンバーです。
同院の場合、医療療養病棟や回復期リハビリテーション病棟を有することから経鼻経管栄養を施行する患者さんが多く、チューブ抜去を防止するためのミトンによる身体拘束が課題でした。最小化チームは、経口摂取への移行や胃ろうの造設など、どうしたら解除できるのかを担当看護師、言語聴覚士も加えて検討していきました。そして、経鼻経管栄養が継続されていた患者さんが、身体と嚥下機能のリハビリテーションを継続した結果、 3食とも経口摂取が可能になり身体拘束が解除になったというケースも出てきました。
「これを受けて摂食嚥下介入フローチャートが改訂され、経口摂取につながる患者さんが増えるのではないかと思います。食べやすさや栄養面での工夫から経口摂取につなげることが身体拘束を減らすことを再認識しました」と栄養管理科係長の坂本陽子さんはいいます。リハビリテーション科科長の井口聡さんは「けいれん症状によって嚥下機能の評価ができなかった患者さんが少なからずいたので、その点は反省点です。しっかり機能評価したうえで身体拘束が必要かどうかを検討することが大切だと実感しています」と、目の前の病態だけでなくその先の可能性をみる重要性を確認していました。
このように最小化チームによる活動の効果は着実に現れており、当初は30名ほどいた身体拘束対象者が現在は3分の1程度まで減少しています。
最小化チームの活動を担っている精神科部長の渡辺範雄さんは「このチームがアクティブに活動するようになって、身体拘束の件数は減り期間も短縮。患者さんの苦痛も低減し、 ADLの改善にもつながっています。診療報酬上だけでなく、患者さんにとって有用で非常に意味のあることだと思います」と話しています。

場合によってはステーションから患者さんのベッドサイドまで足を運び、状態を確認する(写真はHCU)


中辻さんが電子カルテをチェックして対象となる患者さんをピックアップ
人の尊厳にかかわる身体拘束新たな問題提起も
身体拘束は患者さんの尊厳に大きくかかわるものです。特に本人による意思決定ができないケースではより慎重に対応されなければなりません。中島さんと中辻さんは「患者さんにとって何が本当にいいのかを考えるためにもACP*3の考え方をもっと広く周知させることが必要」と強く訴えていました。
今回は診療報酬改定により再度注目されている身体拘束ですが、超高齢社会における別の側面からの問題も提起しているようです。
*1 「切迫性」は本人またはほかの患者・利用者等の生命または身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと、「非代替性」は身体拘束その他の行動制限を行う以外に代替する方法がないこと、「一時性」は身体拘束その他の行動制限が一時的なものであること。
*2 精神科病院(精神科病院以外の病院で精神病室が設けられているものも含む)は当てはまらない。
*3 Advance Care Planning (アドバンス・ケア・プランニング)。将来の医療やケアについて、本人を主体に家族や医療・ケアチームが話し合いを重ね、意思決定を支援すること。近年では「人生会議」とも呼ばれる。
医療法人社団蘇生会 蘇生会総合病院
京都府京都市伏見区下鳥羽広長町101
https://www.soseikai.or.jp
開設/1952年、病床数/290床
職員数/646名、うち看護職員234名(2025年3月1日現在)

本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2025年4月号 TiaraNo.154より転載しています。
