
2011年に示された「新人看護職員研修ガイドライン」(厚生労働省)の後押しなどもあり、いまや看護教育では欠かせないプログラムとなっているシミュレーション研修。模擬的な環境のなかで、実践スキルや適切で効果的な対応を習得し、臨床での安全な医療の提供を目指すものです。そんな研修の専門施設である東京医科大学病院シミュレーションセンターではどのようにシミュレーション研修に携わっているのか話を聞きました。
シミュレーション研修はさまざまなケースで実施されている
東京医科大学病院シミュレーションセンター(以下、センター)は、2004年に開設された卒後臨床研修センターのクリニカル・シミュレーション・ラボがその前身。当初は研修医の入職時の利用が主でしたが、その後院内に向けてのシミュレーション研修の普及にも取り組み、他の職種も含む多くの職員に利用されるようになりました。そして2014年、病院敷地内に建設された教育研究棟に移転し、新たに独立した部門としてスタートしました。
センター長の阿部幸恵さんは、2006年から5年間ラボの管理者を務めた後、招かれて外部のシミュレーションセンターの立ち上げに携わり、センター始動の前に同院に復職、現職に着任しました。
センターは、卒後臨床研修センター、生涯教育センターとともに院内の教育部に設置されています。職員の実践力やチーム医療の質を上げることを目的に、医師や看護師だけでなく、院内の全職種に向けてシミュレーション研修を実施する部署として生まれ変わりました。発足当時から全職種のためのシミュレーション教育の企画を積み重ね、現在では、事務職員の接遇やマナーのシミュレーション、看護部のラダーに組み込まれた研修の講師、卒後教育研修センターとともに各科持ち回りの研修医のためのシミュレーションを実施。さらに、安全管理室と連携してのCVライン挿入の研修、ライフサポート教育部会と連携してACLS・BLS、ICTCを行うなど、多様なシミュレーション研修を展開しています。シミュレーション研修が積極的に導入されている基礎教育でも、医学科や看護学科のシミュレーション授業の支援、姉妹校の東京薬科大学とのシミュレーションによるIPE*に携わります。近年では、訪問看護師対象の企画・運営にも着手しています。
「このようにシミュレーション教育を効果的かつ継続的に行っていくには指導者養成が重要です。センター発足以来、継続的に指導者養成の研修を継続しています」(阿部さん・冷水さん)
この結果、センターの利用者は、院内外を合わせて年間延べ6000名に上るまでになったそうです。
*interprofessional educationの略。専門職連携教育のこと。



「自ら動いて学ぶ」が基本、シミュレーションによって磨かれるもの
2024年に施行された医師の働き方改革に伴い、多くの現場でタスクシフト/シェアが進められていますが、シミュレーション研修はここでも活用されスキルが必要です。それを補うのがシミュレーションによるトレーニング。臨床で考えられるさまざまな状況を疑似体験し、その対応を学ぶことで臨床での実践を可能にします。
「シミュレーション研修では、反復トレーニングで技術・知識を、状況を設定したトレーニングで対応の仕方を身につけます。安全を担う目的以外に、医療における価値観やふるまいにも磨きをかけられるところがシミュレーション研修のおもしろいところでもあります」(阿部さん)
シミュレーション研修は、受講者自らが動いて考えるという学習スタイル。学ぶ意欲を高めてくれる研修といえるでしょう。
「だからこそ受講者は関心がもてるし、何より楽しい。これが、自立して考える医療者を育てます」(阿部さん)
センター助教で診療看護師管理室室長の冷水育さんは、次のように話します。
「当院ではシミュレーション研修を長く続けてきたので、スタッフは自ら動くという素養を身につけ、院内にもそういう風土ができてきたように思います。コロナ禍でクラスターを起こすこともなく、職員が落ち着いて対応できたのも、感染管理のシミュレーション研修を続けてきたことの賜物。臨床現場がよくなれば、それが患者さんに還元されるということがわかります」
現在阿部さんと冷水さんが特に着目しているのは現場の指導者の育成。「院内の各所に指導者がいる環境がつくれれば、センターのスタッフがいなくても研修ができる。部署内での企画も可能になり、臨機応変にシミュレーション研修が実施でき、OJTでの応用も見込めます」と話します。




社会環境を見据えて教育もアップデートが必要
人口減少やDXの推進など、近年社会環境は大きく様変わりしています。
「教育は社会の変化に応じて変わっていかなければなりません。社会の情勢や新たな動き、文化も含めて学び、身につけてきた学生が、いざ看護師になったら、現場では業務の仕方や学習方法がアップデートされておらず、戸惑い、やがて意欲をなくしていくというケースもあります。管理者をはじめ、現場の医療者は、専門分野以外にも広い視野を向け、関心を高め、そこで得たものを自らの現場に落とし込むという姿勢が必要だと思います」(阿部さん)
教育は「相手にどうやって教えるか」ではなく「相手がどう学んでいくかを育むこと」だと阿部さんはいいます。シミュレーション研修は、自ら考え、取り組み、振り返ることをサポートするものです。受講者がそこで繰り返して学びとったことは、臨床現場でも生かすことができるのだとか。まさに学び方を育む研修なのかもしれません。


DATA
東京医科大学病院
シミュレーションセンター
東京都新宿区西新宿6-7-1
https://team.tokyo-med.ac.jp/sim-c/
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2025年10月号 TiaraNo.157より転載しています。
