
2002年に厚生労働省が「看護師等による静脈注射は診療補助行為の範疇である」という行政解釈の変更を行い、以来静脈注射は看護師の業務とされています。その間、各医療機関が静脈注射に関する教育研修を行ってきました。
タスクシフト/シェアが進められるようになった近年、静脈注射の安全性があらためて重視されるようになっており、教育研修の再構築を図る施設も増えているのではないでしょうか。今回は大原綜合病院の取り組みをみていきます。
医療を取り巻く動きが加速するなか安全な看護提供を優先
2024年度からスタートしている「医師の働き方改革」を受け、タスクシフト/シェアによって看護師や薬剤師、診療放射線技師など他職種の業務範囲が拡大する傾向にあります。日本看護協会では2022年に「看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド」を発表し、タスクシフト/シェアに取り組む際の基本的な考え方を示しました。このなかでは、患者さん中心の医療、医療の質と安全性を担保するために「新たな業務を担うこととなった職種等については必要な教育・研修をあらかじめ行う等の体制整備を行う」とされています。
それぞれの現状によりタスクシフト/シェアの取り組みには至っていないという施設は少なくありませんが、一連の流れを受け、あらためて医療安全について確認・強化する動きは出ているようです。
「将来的にタスクシフト/シェアは視野に入れており、エコーガイド下静脈穿刺が行える看護師の養成なども念頭に置いています。しかし、地域の現状を考え、十分とはいえない人材でいかに安全な看護を提供していくかを優先しました。そして一番に取り組んだテーマが静脈注射でした」
大原綜合病院副院長兼看護部長の景井多紀子さんはこう話します。同院は急性期病院として地域の医療を支えていますが、国が医療の集約化、病院の機能分化を進めるなか、その影響は大きくなっているといいます。救急や外科系の患者さんが今まで以上に増え、これに伴って静脈注射の実施も増加。今一度静脈注射についての教育体制を整備する必要があると考えていました。




外部研修を活用して人材を育成し新たな視点を取り入れた取り組みを
同院がまず取り組んだのは、外部のIVナース研修を活用し、核となる人材を育成すること。
「より新しいスタンダードを吸収し、知識・技術はもとより、研修のあり方や構築の仕方も身につけてもらうことを考えました」というのは大原記念財団看護本部副部長の大河内ヒデ子さん。研修には2022年に1名、2024年に2名が参加。研修修了者をIVナースと位置づけ、現在3名で研修の整備を進めています。
同院の静脈注射に関する研修(以下、IV研修)は、新人研修とOJTによって行われています。今回の整備では、この流れは変えずに新人研修をブラッシュアップし、その一方で新たに「IVラダー*」の作成を進めるものとしました。
「注射と点滴については手順書があるのですが、部署ごとに一部独自のやり方になってしまっていた。スタッフは年代の幅も広く受けてきた教育制度も違っており、手技やルールの統一が難しいと感じていました」と話すのは8階東病棟看護師の鈴木恵さん。3人のIVナースの1人です。そのため、あらためて知識と技術を整理したうえで、手順書と新人研修の見直しを行い、さらにIVラダーを作成し、2年目以降の看護師についてもスキルの統一・評価が図れるよう考えたといいます。
8階西病棟看護師の野内康宏さんは、ひとり先駆けて外部研修を受講し、2023年からIVナースとして新人研修の見直しを行っていました。翌年からは2名の新たな仲間を得て、より多角的な取り組みが可能になったそうです。
「新人研修については、事前にeラーニングで動画による学習をしてもらうようにしたほか、講義の時間配分や流れも変更しました」と野内さん。同じくIVナースの6階西病棟看護師の常盤千夏さんは「新人研修では、対象に合わせた伝え方、シミュレーション研修の活用など、外部研修で学んだ『人に教える技術』が生かせました」と話します。新人研修は2025年度から新たなかたちでスタートすることができました。
IVラダーについては検討を進めている最中ですが、2026年度には運用の開始を目指しています。
大河内さんとともに取り組みを担当している看護人材開発室教育担当師長の齊藤亜紀子さんは「IVナースたちはOJT用のチェック表の作成に際しても、細かい部分にまで目を向けていました。外部研修で学んだことは確実に彼らの力になっていると思います」とその仕事ぶりを評価していました。
*IVの知識・技術についてレベル分けを行い、段階的に評価・習得を進めていくもの。
取り組みの先を見据えて今後は管理者もIVナースに
同院の新人研修には、以前から各部署1〜2名のスタッフが協力者として演習に加わり、新入職者の指導を行ってきました。2025年からは協力者にも一緒に講義を受けてもらい、講義に則った指導をするよう要請し、それを徹底したそうです。
その結果、 OJTの現場でも新人研修で学んだことを優先した指導が行われている様子がみられてきたといいます。徐々にですが、現場にも取り組みが浸透し始めたのかもしれません。
「今度は管理者に外部研修を受講してもらい、IVナースのメンバーに加えたいと考えています。チームとして物の見方が広がる一方で、より発信力が高まるのでは」と大河内さん。さらに「IV研修への取り組みは人材の育成にもつながりました。当財団内には回復期から地域までをカバーする医療センター、訪問看護ステーション、看護学校もあり、当院で育成した人材が、安全なIV看護を他施設にもつないでくれることに期待しています」と話します。
地域を支える急性期病院として今何が求められるかを考慮し、IV研修の再構築に取り組んだ同院。今後どのような選択をしていくのか注目です。



DATA
一般財団法人大原記念財団 大原綜合病院
福島県福島市上町6-1
http://general.ohara-hp.or.jp

本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2026年3月号 TiaraNo.159より転載しています。
