
医療現場ではいつでもどこでも起こり得る「急変」。素早く的確に対応できることは看護師にとって重要なスキルです。しかし、臨床でその経験を重ねる機会は限られており、日々の業務だけでスキルを向上させるのは容易ではありません。そんな状況を受け、医療研修施設ニプロiMEP(滋賀県草津市)で行われた研修では、58名の受講者たちが、シミュレーションを活用した実践的なプログラムに取り組みました。
* この研修はニプロ株式会社医療研修施設ニプロiMEPと救急ケア開発研究所「JDIEC」とのコラボレーション企画として開催された。

急変対応をスムーズに行うために基本となる4つのステップを学ぶ
2025年度の「シミュレーション学習で楽しく学ぶ急変対応!〜院内急変1、2、3〜(ワン ツー スリー)」は、12月13日・14日の2日間開催で行われました。高機能シミュレーターを用いて模擬的に臨床現場を再現し、急変対応に必要な知識・技術・判断力を統合的に身につけるシミュレーション学習を主体とした研修です。
研修はまず全体講義からスタート。研修コース全体のコーディネーターを務めた苑田裕樹さん(令和健康科学大学臨床シミュレーションセンター)が、急変対応のポイントについて解説しました。
「急変対応の基本を4つのステップにしています。これを事例に応じて繰り返し達成していくことで、自分の役割も明確になります」(苑田先生)
この4つのステップは、次に行うシミュレーション学習の際に活用するもの。さまざまな急変症状に対応する際、これに基づいて思考や行動を展開していくことを確認し、講義を締めくくりました。
シミュレーション学習によって繰り返すことで基本を身につける
引き続きシミュレーション学習が行われました。
受講者は5つのグループに分かれ、設定されたテーマごとに模擬患者に見立てたシミュレーターや必要となる医療機器が用意された部屋を巡っていきます(表 研修スケジュール)。テーマは「呼吸困難」「胸痛」「意識障害」「腹痛」「蘇生」。受講者たちは、各部屋で示された事例の患者基礎情報を確認し、受け持ち看護師、応援看護師、記録係などの役割を決め、4つのステップに従ってそれぞれが行動していきました。
■ステップ1:初期アセスメント(一次評価)
受け持ち看護師役が患者さんを観察します。呼吸や脈拍などの生体反応はシミュレーターからリアルに測定。問いかけへはインストラクターが応えます。患者さんの全体的な印象を捉えながら、ABCDEアプローチにより緊急度を評価しました。
■ステップ2:緊急処置(ABCの安定化)
ABCに異常が見られた場合、ナースコールで救急カートやモニター、応援を要請し、医師への連絡を指示します。応援看護師役は実際に物品を持って登場。受け持ち看護師と応援看護師のリアルな動きと連携も体験しました。
■ステップ3:重点的アセスメント(二次評価:病態予測)
ABCの安定下で、患者さんの主訴や症状、危険な兆候に絞って、問診とフィジカルアセスメントから病態を予測します。観察中に患者さんの状態が悪化してしまうこともあり、アセスメント力・対応力も鍛えられるようです。
■ステップ4:SBAR報告
緊急度が高いと判断した場合は再度医師へSBARに沿って報告します。医師役のインストラクターへ実際に報告することで、緊急性が伝わる報告について学びました。
シミュレーションを終えたらデブリーフィングを実施。自分たちが行ったアセスメントや行動について、受講者同士が言語化し整理を行います。診療看護師・認定看護師であるインストラクターのサポートもあり、受講者たちは自らの課題を確認し、解決に向けて何をすべきか1つ1つ思考を整理し理解を深め、各部屋を後にしていました。
受講者は、シミュレーションを通してなかなか出合うことのない急変対応の場面を擬似体験し、時には初めての知識・技術に触れ、自身の知識の裏付けを確認していました。インストラクターの臨床体験に基づいた指摘や着目点には気づきが多かったようで、その言葉に大きく頷く姿もありました。同じ急変症状であっても、患者さんの現疾患や既往歴によって、推論のポイントは変わります。危険な兆候が何かを見極めることの重要性もあらためて確認できたようでした。そして、急変対応のシミュレーションを繰り返すうちに、動きがスムーズになり、基本のステップが刻み込まれていく様子がわかりました。
シミュレーション学習を終えた受講者たちは最後に修了証書を受け取り、研修は終了しました。
研修で得た学びを手に帰路についた受講者たち。明日からの看護の自信につながることを期待しています。







急変対応とシミュレーション学習

急変はいつ出合うかわからないもの。だからこそ、出合ったときにどうするか課題を明確にし、クリアしておくことが必要になります。シミュレーション学習による擬似体験はそのための有効な手段です。
この研修では対応の仕方をステップ方式にしており、繰り返し行うことでそれが急変対応の共通言語になる。振り返りもしやすいので、多くの人に身につけてほしいと思います。

シミュレーション学習は課題によって内容と効果が変わります。急変対応の場合、アセスメントや処置が段階的に進められるため、そのステップはシミュレーションで体験しやすい。初めての人でも自分がどの段階で何をしているかがわかりやすくなります。この研修では、さらに経験豊富なインストラクターが加わることで、受講者の能力や意欲がうまく引き出されたと思っています。
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2026年4月号 TiaraNo.160より転載しています。
