
医療DXの推進を筆頭に、医療分野でもデジタル技術の導入が進められています。さまざまな医療現場でデジタル技術の活用がみられるようになりました。
このようななか、第59回東京都看護学会ランチョンセミナーでは、デジタル技術をベッドサイドに導入した取り組みについて発表がありました。デジタル技術は看護師にとってどのような助けになり、看護師には何が求められたのか──そこにはこれからの看護を考えるヒントがありました。
医療DXに牽引されるデジタル技術の導入看護にもその影響がもたらされる
医療DXは、医師の働き方改革を後押しする手段として国により位置付けられています。診療報酬においても評価されることになり、2024年度改定で医療DX推進体制整備加算が新設され、2026年度には電子的診療情報連携体制整備加算として再編されました。これにより、医療DXにおける医療機関への評価は体制整備から実際の活用に移行。医療DXが着実に進んでいるのがうかがえます。
このように医療分野におけるデジタル技術の導入は、医療従事者の業務の効率化が第一の目的とされていますが、同時に業務の変革につながる道にもなっています。2026年1月、第59回東京都看護学会で行われたランチョンセミナー「病人を『観察する』とは〜観察したことは黙認するな、行動せよ〜」において、東京慈恵会医科大学附属病院で行われたひとつの取り組みが発表されました。このなかで、新たなシステムを導入したことで得られた効果と、看護の基本の普遍性・重要性が再確認されました。これからの医療を考えるうえで、デジタル技術がどのような変化をもたらすのか、看護師にはどのようなことが求められるのか、この取り組みの内容から確認します。


東京慈恵会医科大学附属病院で行われた通信サポートシステムの導入
2021年、東京慈恵会医科大学附属病院では、ICUに新型コロナウイルス感染症重症者用病床を一定数確保するため、ICU入床予定患者さんの一部を一般病棟で管理することになりました。その際、患者さんに不利益が生じないよう、さらに前年からのスタットコールの増加も考慮して、RRS*1に集中ケア認定看護師の専従配置を行いました。重症化を未然に防ぐための体制強化です。
そこには、同院の看護師が平均年齢27.9歳と若く、病棟勤務の6〜7割を看護歴5年目以下の看護師が占めるという背景がありました。多くがコロナ禍により十分な臨地実習が受けられないまま入職しており、臨床で経験を重ねている発展途上の状態でした。
「看護には、実際に見たことや感じたことのなかから、最適な情報を認識し、看護技術を選択して提供するという過程があります。なかでも認識は経験によって培われるもの。経験がまだ十分でない看護師たちには、それを補う環境づくりを行い、自信をもって働けるようにする必要があるのではないかと考えました」
セミナーで発表を行った同院看護部長*2の玉上淳子さんはこのように話しています。そして新たな環境づくりを模索するなか、通信サポートシステム(HN LINE?/ニプロ株式会社)の試験運用を行うことにしました。このシステムは、ベッドサイドで測定した医療機器のデータが自動的に転送され、客観的指標によって評価されるもの。業務の効率化とともに「評価」が経験を補うのではないかと考えたといいます。
「転送されたデータはNEWS*3によってスコア化され、患者さんの急変リスクを判断する目安となります。私たちは、これが看護師の的確な判断とRRSへの介入依頼につながることに期待しました」と玉上さん。実際、患者さんの状態がスコアで示されるようになると、若い看護師たちに変化が生じたそうです。
「スコアの高い患者さんには注目が必要」という認識が生まれ、先輩看護師らとともに注意して観察を行うという流れが病棟内に広がっていきました。
その後、早期警告スコアを病棟の実情に合わせてNEWS2*4へと変更し、システムの活用を継続したところ、2024年度のRRS介入件数は前年度より20件近く増加するという結果になりました。
さらに、2025年8月からは医療安全推進部患者急変対応チームによるCCOT*5の活動がスタート。これも看護師の経験を補う環境づくりの一助になっているといいます。
「これは医師の働き方改革により実施される医師の合同当直に向けて始められたものですが、チームに参加している看護師からの発信もあり、CCOTの回診は病棟スタッフが医師や集中ケアスタッフに相談し話し合う機会になっています」(玉上さん)
システム導入によって観察への向き合い方が変化し、看護師の患者さんについての気づきが増えたことも、このような動きに影響しているかもしれません。現在、システム運用病棟内ではNEWS2がリスクのある患者さんに対する合言葉になりつつあるとのこと。スコアの変化から患者さんの状態を推測・共有したり、医師への報告に用いたりと、NEWS2のスコアは確実に観察や判断を助けるツールになっているようです。
*1 rapid response systemの略で、院内迅速対応システムと訳される。悪化の予兆・症状がある入院患者さんに対し、重篤化する前に多職種チームが早期に介入する。東京慈恵会医科大学附属病院では2012年から導入。
*2 *6 2026年1月時点の所属となる。
*3 national early warning scoreの略。急性期疾患の予後予測スコアでバイタルサインを数値化して急変リスクを示すもの。
*4 NEWSの更新版で、2型呼吸不全患者の評価がより正しくできる。
*5 critical care outreach teamの略で、集中ケアアウトリーチチームと呼ばれる。RRSを構成する要素の一部。集中ケアの知識を有する多職種チームが、急変リスクの高い患者さんを定期的に訪床し、急変や重篤化を予測し早期介入する。予防的な役割を担う。


業務の効率化とともに看護師があらためて確認したこと
「今回のデジタル化で看護師の業務は効率化されました。しかし、そのシステムを使いこなすのはやはり看護師です。システムの有効的な活用には、看護師が自らの技術や経験で補足しながら、今まで以上に患者さんに関心をもち、いかに観察できるかが重要になると感じています」(玉上さん)
今回の取り組みでは、通信サポートシステムの導入により、バイタルサインの測定に際しての利便性は高まり、業務の仕方も変化しました。その一方で、看護の基本である観察の重要性も浮き彫りになりました。ナイチンゲールは「看護覚え書」のなかで、観察を看護教育において最も基本となるものとしています。玉上さん自身、ナイチンゲールの考えにあらためて触れ、バイタルサイン測定などの基礎技術にこそ観察が伴わなければならないと再認識したことを、事例発表の前段で述べています。
セミナーで座長を務めた北里大学病院特定行為研修センター長*6の谷口陽子さんは「ナイチンゲールの思想や考え方とDXは対極にあるように感じてしまいます。しかしそうではなく、それらは一直線上にあり、私たちが日々アップデートしながら生かしていくものなのです。今回のセミナーでは、デジタル技術をいかに有効に活用するかということ、そして看護の軸は変わらないことを確認できたと思います」とセミナーを結んでいます。この言葉からもわかるように、新しい技術を取り入れることで生まれる業務の変革は、デジタル技術と看護の基本の両者が補い合うことで、よりメリットが高まります。そこに、看護師にとって「変わるもの」「変わらないもの」をみることができるでしょう。
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2026年6月号 TiaraNo.161より転載しています。
