
社会環境の変化や価値観の多様化などに伴い、若手看護師や看護学生だけでなく、中堅看護師においてもさまざまな働き方を模索する動きがあります。日本看護協会では2023年6月に「看護職の生涯学習ガイドライン」を公表。これは、同会がそれまで示してきた「継続教育の基準」に代わるものです。このように看護職が自らの生き方を踏まえて働き方や学び方を見直す時期を迎え、看護職を受け入れる組織側にはどのような変化があるのでしょう。川崎医科大学附属病院の例で確認していきます。
社会状況やニーズの変化により変わる看護職の生き方・学び方


日本看護協会が策定した「看護職の生涯学習ガイドライン」は、看護職が生涯を通じて自らの役割を発揮していくための学習のあり方を示すとともに、雇用側はその生涯学習を支援するためどのように取り組みを行っていけばよいかを記しています。このなかで柱となっているのは、看護職一人ひとりが社会状況やニーズの変化に合わせて新たな知識や技術を学び直し、継続的な学習を行えるようになること。看護職には、主体性をもって継続的に自らの能力の開発・維持・向上を図っていく一方で、各々のライフイベントや価値観、仕事と生活のバランスを学習スタイルに反映していくことが求められています。同会では、このガイドラインを現役の看護職だけでなく、看護基礎教育機関やそこで学ぶ学生にも参考にしてほしいとしています。
「これまでは、病院側がキャリアモデルを作成し、看護歴や役職、所属などに応じて研修等の学習機会を看護職に提供してきました。しかしこのガイドラインが示されたことで、看護職の働き方の多様性が明確になり、看護職自身の主体性を尊重することが必要であることに気づかされました」
このように話すのは、川崎医科大学附属病院看護部長の平松貴子さんです。「これまで、看護職は定められたカリキュラムに沿って学習を行う受け身の立場であることが多く、病院も職員一律に教育を行うことが当たり前であると考えてきたように思います。しかし時代は変化し、看護職には自ら考え主体的にその歩みを選択していく姿勢が必要とされるようになりました。病院としてもそれを可能にする人材を育成していかなければならないと考えました」と、ガイドラインをきっかけに看護部としてのあり方を検討し始めたといいます。

現場感を尊重することを第一に看護部理念の刷新を図る
そこで同院看護部が着目したのが「理念」です。ガイドラインでも病院に対し “自組織で求める看護師像を明確にし、必要な能力や知識・技術を明示することが必要”と最初の項で求めています。
「理念を変えるということは、看護部にとって挑戦です。病院としての役割や機能を踏まえ、当院がどのような人材を必要としているかに立ち返り、根底から見直すことになるからです。当院の場合、これまでの理念から1歩も2歩も踏み込んで、目指す看護師像が具体的に浮かび上がるようなものにしていくことが重要でした」(平松さん)同院は、2024年度1年をかけて新たな理念の策定にあたりました。その際中心となったのが看護単位責任者会議です。これは看護師長、看護副師長によって構成されるもので、現場で直接スタッフを育成している人が集まったものです。「私たち、いわゆる看護部の上層部が求める人材が、現場で求められている人材とずれているかもしれない。であれば、現場の考えを汲み上げ尊重することが必要ではないかと考えました。何より、私自身みんながどのような人材がほしいのかを知りたいと思ったのです」と平松さんは話します。
そして、技術や知識などのスキルの高さという一般的なことではなく、「特定機能病院として地域で中核的な役割を果たしている川崎医科大学附属病院では、どのような人材が活躍できるのか」という視点から、その人材像を探っていったそうです。人材像を表現するにはどのような切り口があるか、どのような構成要素が考えられるかなどについては、看護部キャリア開発委員会や看護副部長らも協力して考え方のヒントや素材を収集し部長会議で話し合って、看護単位責任者会議と共有したといいます。

図1は新たに策定された川崎医科大学附属病院の看護部理念。図2でSHINEに込められた意味とねらいを説明している。2025年度から切り替えられた(図はいずれも同院ホームページより転載)

「SHINE」に込められた意味がそれぞれの看護師の理想となるように
このようにして、看護単位責任者会議によってまとめられた案は、部長会議の看護教育ミーティングによって微調整され、現在のかたち(図1・2)に至りました。今回の理念の作成に携わった看護副師長の渡邉理恵さんは、「with SHINE」に込めた思いについて次のように話します。「5つの項目を備えた看護師を目指していきまし ょうという目標でもありますが、当院の看護師としてそれぞれに何か輝くものをもってほしいという思いも込められています。そして、現場の看護師に加え、管理者も、チームを組む他職種も、さらに地域連携も視野に入れ、かたちは違っていても当院がみんなとともに光り輝ける場所となることをイメージして『with』を加えました」
新しい理念への切り替えは2025年度からスタートしており、同時に院内教育プログラムの見直しも実施されました。ラダーの変更を行い、看護師に向けて行ったアンケート結果をもとに研修項目・内容をブラッシュアップ。キャリアデザインシートも導入しています。
「スタッフの目線に近いところで考えられ生まれた理念ですから、自分たちが目指す看護の理想として現場で親しまれ、心を寄せてもらえるといいですね」と平松さん。今後は看護方式の見直しも考えているといい、ガイドラインをきっかけに吹き出した新しい風は、これからも同院にさまざまな動きをもたらしていくようです。

川崎医科大学附属病院
岡山県倉敷市松島577
https://h.kawasaki-m.ac.jp
開設/1973年
病床数/ 1138床
職員数/ 2251名 うち看護職員1126名(2026年4月現在)
本記事はニプロ株式会社発行の看護情報誌「ティアラ」2026年9月号 TiaraNo.162より転載しています。
