

看護学校卒業後は、飲食店でアルバイトの掛け持ち。面接もなくスタートした精神科看護師人生。ダンサーでありナース専科のインタビュアー兼ライターでもあるシーサーさんが、新しい仕事を始めるようです。
看護師のさまざまな働き方を紹介するコーナー。最終回はこのコーナーのインタビュアー兼ライターを担当してくれていたシーサーさんの登場です。肩書が「看護師兼ダンサー」だけあって、ユニークな経歴と独特な視点の持ち主。そんなシーサーさんが今、取り組み始めた仕事を中心に、これからの活動についてもお聞きします。
新しい仕事にかかわり始めたそうですね
そうなんです。ビジネスパーソンを対象とした精神科訪問看護ステーションの立ち上げにかかわっています。
ユニークですね。具体的にはどんな訪問看護ステーションなのですか?
今の時代、心や精神を病んで入院するサラリーマンはとても多いのですが、治療を終えて退院すると、その後のフォローは、たまの外来通院程度で手薄になってしまいます。しかし本人のストレス耐性は変わっていないため、職場に復帰したあとにまたストレスによって発症し、再入院となってしまうケースが多いのです。
本当は、退院後にも継続的な心理教育などのアフターケアが必要なのに、その担い手がいないのが現状です。そこで、これら病後の働くサラリーマンや休職中のサラリーマンを対象にした精神科訪問看護を行うステーションを設立の手伝いに携わることになりました。
これまでケアの手が届かなかった対象にリーチできる、救えるはずの人をちゃんと救うことができる、とても意義のあるステーションになると思います。
働く人を対象にした精神科訪問看護、とっても興味深いですね。いつから携わっているのですか?
2020年6月からです。株式会社ソシエテというコンサル会社に勤める知人から話を持ち掛けられ、参画することにしました。
きっかけはTwittweです。以前、Twitterを通して「働き方に関するイベント」への講演を依頼され演者として登壇しました。その後の食事会でソシエテの知人から、この新しい精神科訪問看護ステーションの構想を聞かされ、これはぜひ形にすべきだと思いました。
僕自身の精神科訪問看護師時代の経験を役立てられるなら、ぜひ手伝いたいと考えました。
具体的にはどんな仕事を担当しているのですか?
オープニングスタッフの採用と教育などの人事関係、管理部門の内部設計などを担当しています。今年(2021年)4月にはオープン予定で、すでに2人の看護師の採用も決定しました。自分を含めいずれも精神科病棟での勤務経験をもつスタッフです。オープン後には、僕も現場に出て精神科訪問看護を手伝う予定です。

働くサラリーマンを対象にすると、どんな時間に訪問することになるのですか?

朝の出勤前や夜の帰宅後、土日などが中心になると思います。今は在宅ワークも増えていますから、日中に訪問できるケースも多いのではないかなと思います。

在宅ワークが増えているなか、精神科にかかるサラリーマンの数は増えているのでしょうか?

周囲とのコミュニケーションが減って、心を病む方は増えていると聞いています。特にエンジニアなどの職種では、仕事量が増えるなかで孤独に陥ってしまい、精神的に潰れてしまう社員が増えたという社長さんの声なども耳にしています。
どんな精神科訪問看護ステーションを作りたいですか?
働きやすい職場にしたいな、と思っています。僕自身も訪問看護を行いますし、毎日働く職場ですから、気持ちよく働けるほうがいいですよね。
ただ、実は長く働くかどうかはまだ未定なのです。ステーションの経営が軌道に乗ったら、もうこの仕事をする人間が自分である必要はなく、他の人に任せていいんじゃないかなとも考えています。とても良いビジネスでこの世に必要なものだと感じたから、僕の力が活かせるならばぜひ立ち上げに協力したい、けれど自分以外の人でも運営できるようになれば、離れてもいいんじゃないかなとも思うんです。
将来的にはどんな働き方を目指しているのですか?
僕のもう1つの肩書はダンサーです。主に子どもたちを中心にダンスを教えています。将来、ダンス1本に絞るかどうかはわかりませんが、プロとしてダンスの仕事もきちんと広げていきたい。ただ年齢的にみて、今は1人でこなしているダンスレッスンも、そのうち1人ではこなせなくなるでしょう。
人を雇ってレッスンを広げていくことになったとき、経営や管理などのマネジメントの手腕が必要になるだろうと考えていました。今回、ステーションの立ち上げにかかわった理由の1つには、マネジメントを経験できる良い機会になるのでは、と考えたところもあります。

果たしてキックボードで訪問看護に行くことができるか検証中の写真
シーサーさんの働き方[ある1日]
| 6:30 | 起床 |
|---|---|
| 7:30 | 朝食づくり、子どもたちに朝食を食べさせ、小学生の送り出し、その他の家事、洗濯 |
| 8:30 | 妻の出勤と同時に、保育園へ子どもを連れて行く |
| 9:00 | 仕事タイム。精神科訪問看護ステーション立ち上げにかかわる業務(オンライン会議、採用面接、事業説明会の実施など)、このコーナーの記事の執筆、オンライン実習の準備、ダンスの振り付けを考える、レッスン曲の編集など |
| 12:00 | 昼食、少し昼寝 |
| 13:00 | 午前中の仕事の続き |
| 15:00 | 買い物、夕食の準備 |
| 16:00 | 保育園の子どものお迎え |
| 16:20 | ダンスレッスンのために家を出る。スタジオは家から5分のため自転車で |
| 16:30 | 月~木曜はダンスレッスン。本日のレッスンは、低学年と高学年の2クラス×60分 |
| 18:40 | 帰宅、子どもたちに夕食を食べさせ、お風呂に入れさせる、その他の家事など |
| 20:30 | 明日の仕事の準備のあとは、ドラマや動画を見るなど自由な時間 |
| 22:30~23:30 | 就寝 |
![シーサーさんの働き方[ある1日]](https://images.microcms-assets.io/assets/eb0d1a2254c045f4b87e572f39f0244f/3f1d32b0d75845e3815043cb6e27e9fa/2d723157b0e167f4.png)
大学で精神科看護の非常勤講師もしています。実習のある日は、9:00~16:00でオンライン実習を行います。
新型コロナが流行する以前は、5:30に起き、6:30には家を出て、8:00~16:00までが実習指導、帰宅は18:00という生活でしたから、妻との家事や育児の分担が大変でした。今とは時間の使い方がずいぶん違いますね。
訪問看護ステーションの立ち上げではどんなスキルが磨かれますか?
先にもお話したように、この立ち上げに携わることを決めた目的の1つは、マネジメントスキルの修得でした。ただ実際に仕事を始めてみると、思わぬスキルも身についてきていることを感じています。
それは、仕事の進め方のスキルです。主に一緒に仕事をしているのは、ソシエテの社長と社員の方々ですが、彼らの仕事の仕方がとても洗練されていると感じています。
きちんと誰が見てもわかるように思考を言語化し、目的を明確にし、目標に向かって必要なタスク(作業)を割り出し、期日に通りにこなしていく、その業務管理の手法は僕が今まで学んでこなかったものなので、とても勉強になっています。ダンスであっても看護であっても、今後の自分の仕事の進め方に生かせるのではないかと思います。
また、人事面を担当することで、人を見る観察力が少しついたかなと感じました。スタッフの採用にあたっては、必ず複数人で面接を行いますから、自分が感じた印象と他の人の印象をすり合わせるなかで、今まで気づかなかった見方や観察のポイントなど、学ぶところが多いです。
訪問看護ステーションの立ち上げはキャリアップに活かせそうですか?
キャリアアップというのとは、少し違うかもしれませんが、ゼロから何かをつくる仕事をしようとしたとき活かせるのではないかと思います。
人を集めて役割を分担し、仕事を割り振りし、期日までに遂行するようなとき、いわば人材管理が必要になったとき、今の経験が活かせるのではないかと感じています。
「来週から働きに来ていいよ」と見学でいきなり言われ
改めて、看護師を仕事として選んだ理由を教えてください
高校時代が就職氷河期でした。何件もの会社訪問をしても内定が取れずに苦しむ先輩たちの姿をテレビで見ていて、自分がスーツを着て同じ行動をしてサラリーマンを目指す姿がどうしても想像できませんでした。
そこで「職業事典」という本を買ってきました。そのなかにいろいろな資格職を紹介するページがありました。ページをめくっていて、僕は子どもが好きなので、保育士か看護師がいいなと思いました。
当時、隣のクラスに好きな子がいて、看護学校を受験するらしいという噂を聞きました。その話と、保育士は看護師免許を取ってからでもできそうであることに気づき、看護学校への受験を決めました。
卒後すぐ看護師として就職したのですか?
僕は看護学校を卒業してから看護師免許を取ったんです。そんな流れから、卒業後も3年間は飲食店で働きフリーターをしていました。
ある日、看護学校の同級生から連絡が来て「精神科の看護師をやらないか」と勧められたんです。試しに彼の働く病院に見学に行ったところ、看護部長から「すぐ来ていいよ。来週から働きに来ていいよ」と、いやに簡単に面接もなく受け入れられてしまいました。
この看護部長の人柄がなんだか良さそうだったこと、見学時に出会ったおばちゃん看護師たちがみんな楽しそうに働いていて雰囲気が良かったこと、同級生もいて安心だったことから、この病院に勤め始めたのが、僕が精神科看護に携わるきっかけになりました。この病院には9年勤務しましたね。
自分の過去に打ち勝てる人と病む人の違いに気づき
精神科看護師とダンサーどちらが本業なんですか?
踊るのが好きなので、みんなで踊れればいいな、仲間や地域の人たちといつでも踊れる環境ができればいいなと考えています。
少し話は逸れますが、精神科の看護をしていて感じることは、生い立ちが凄まじい患者さんが多いということです。虐待されたりすごく悲惨な経験をしているなど、これは精神を病んでも仕方がないと感じてしまうような人が結構多いんです。
しかし片や同じような生い立ちであっても、バネにして社会で活躍している人もいますよね。この違いはなんだろうとずっと考えてきました。そして気づいたことは、ひどい生い立ちであっても、成長期にどこかで良い大人に出会えている人は、自分の過去に打ち勝って生きていけるらしい、ということなんです。
病棟の中では、患者さんの過去には携われませんが、地域でなら子どもたちとダンスをすることで、子どもたちの育成に携わることができます。もし苦しんでいる子どもがいたら気づいてやりたい。だから僕は地域で子どもたちの成長にかかわりたい、それが一番やりたいことなんです。
精神科看護の経験がダンスに活きることはありますか?
ダンスというより、子どもたちのメンタルが見れるという面で感謝されているとは思っています。レッスンで顔を合わせていて元気がない子に気づき、親御さんに確認して感謝されるということはよくあります。
僕のレッスンでは基本怒らない、子どもたちを萎縮させないようにし、のびのび表現してもらうことをモットーにしているので、素直な気持ちを出しやすい場になっているかもしれませんね。
ダンスレッスンをしていて良かったなと思うエピソードはありますか?
不登校の子ですが、ずっとレッスンには通って来てくれていた子がいました。同じレッスンに入る子が増えてきて、あるとき彼のクラスメイトも何人か入ってきました。レッスンを通して彼らは仲良くなって、そのうち不登校だった彼も学校に行き始めるようになりました。クラスに仲間ができて、登校への敷居が低くなったのかもしれません。
今では彼も高学年になり、小さい子たちの面倒をみてくれています。「さわいじゃダメだよ」なんて声をかけている姿を見ると、成長したんだなと思って嬉しくなりますね。

今後ダンスについては、どんな方向に進める予定ですか?

もちろん子どもたちと踊ることも大切にしたいのですが、大人や高齢者向けのダンスクラスも作りたいと思っています。全世代でレッスンは展開したいですね。

なるほど。高齢社会ですから、それは需要が高そうですね!

以前、少し大人のレッスンもやっていたのですが、このコロナ禍でストップしてしまいました。

運動不足になりがちなコロナ時代だからこそ、地域でダンスしたい大人や高齢者も増えていそうですね。
「言ってくれればよかったのに」という切ない心残り
いろいろな仕事をしているシーサーさんですが、これまでの仕事で印象に残っているシーンを教えてください
あるイベントでも話したことがあるのですが、これは精神科病棟に勤務していたときのエピソードです。
80歳代後半の男性の方が入院していました。統合失調症に加え少し認知症もあり、妄想もあったのですが、外出は許可されている方でした。
彼はよく「隣の駅に行く」と言って外出許可をもらっていたのですが、だんだん認知症がひどくなり、病院に戻れなくなって警察に保護されることが多くなってきました。そこでもう外出は難しいだろうと判断され、外出禁止になってしまいました。
外出ができなくなり運動量が減ったこともあってか、半年ほどで彼は肺炎を起こして亡くなりました。その後、お姉さんが病院に挨拶にやって来られ、2人で彼の思い出話をしていたときのことです。
僕が、彼がよく吉祥寺に外出していたことを話すと、お姉さんから、弟には婚約者がいたこと、かなり情熱的な恋愛だったこと、元気なときはいつも吉祥寺で婚約者と待ち合わせをしていたことを教えられました。
「ああ、行きたかっただろうに。教えてくれたらよかったのに」と、そのとき僕は思いました。そんな思い入れのある大切な場所だったなら、僕は1日中でも彼に同行してつき合えたのに。外出禁止になってきっととても悲しかっただろうに、と。
これは切ない心残りの話でしたが、本当に患者さんのことを見ることができているかなという、自分の看護を顧みるきっかけになったエピソードです。

もっと何かができたかもしれない、という患者さんへのエピソードは、心に残り続けるものなのですね。

そういうものの積み重ねが、今のビジネスパーソンを対象とした精神科訪問看護ステーションの立ち上げに、僕を向かわせているのかもしれません。

救えるはずの人をちゃんと救うことができるところに、意義を感じると言われましたものね。
変化が速すぎる時代、目標は抽象的に2~3年後をめやすに
ステーション立ち上げも軌道に乗るところまでというシーサーさんの今後の目標を教えてください
僕はあまり長期的で大きな目標を決めないようにしているんです。
時代の変化が速すぎる現代では、あまり具体的に長期の目標を立ててしまうと、時代のニーズとずれてしまうと感じているからです。
時代に合わせていくなら、目標はなるべく抽象的なほうがいい、物事に固執しないで柔軟にいたほうがいい。僕の場合は、今はとりあえずマネジメント力をつけて、人を動かす仕事ができるようになっていきたい、というのが目標です。
それから、食料自給率を高めたいとも考えています。実は僕は、狩猟免許も持っていて、これは割と本気で肉を自分で獲りに行けるようになりたいと考えているためです。山で山菜を採り、自分で野菜を作り、肉を獲って保存して暮らせるようになりたい。なぜなら、稼ぐことに焦ると、良くない仕事をしてしまう、焦って判断したくない、という思いからです。

ものすごく独特な考え方ですね。

そうですか? 焦って仕事をつかむと、ろくなことにならないと思うんですよ。

それは、やはり一般的な会社員だと、ちょっと湧きづらい発想ですね。やはりいろいろな仕事を自由に選択していっているシーサーさんならではかもしれません。
1本、本業は決めて力をつけたほうがいい
シーサーさんのように生きてみたい人へのアドバイスをお願いします
物事に固執せず、柔軟であったほうがいい、目標は長期でないほうがいいと言いましたが、しかし1本は自分の本業を決めて、まずそこで力をつけたほうがいいと考えています。
これは、本業を身につける過程で、勉強の仕方や修得の仕方がわかるようになるからです。何か新しいことを始めるときには、必ず新しいことを身につけなければなりません。そのときの学び方を習得するためにも、一度、本業を決めて力をつける経験をしたほうがいいと思います。本業があれば、副業で失敗したときにも戻ることができますからね。
また、仲間は大事にしたほうがいい、というのが僕の信条です。人間は社会的動物で、群れで生きています。困ったときや助けが欲しいとき、仲間がいれば助けられるし助け合えます。信頼し合うのはそんなに難しいことではないと思います。どんな意見でも否定せず受け入れる、相手を尊重することで信頼は築けるものではないかと思います。
仲間たちの思いを聞けて看護っていいなと思えた
シーサーさんはインタビュアーとして1年間、このインタビューをしてきて、何を感じましたか?
「看護師の働き方カタログ」というコーナーを通して、1年間いろいろな職場で活躍している看護師の皆さんに話を聞いてきました。
皆さんいろいろな思いで仕事に取り組んでいて、看護の深い部分に触れる話を聞かせてもらえたと思っています。「そういう思いで仕事ができたら楽しいだろうな」と思えることもたくさんありました。看護っていい仕事だなと改めて思うことができました。
個人的には、僕が病棟時代に実習指導で関わった学生をインタビューした回があったのですが、とても感慨深かったです。この人はこういう看護師になったのか、成長したんだなぁと、しみじみしちゃいましたね。

1年間インタビュアー兼ライターとして、このコーナーを担当してくれていたシーサーさん。実は取材をさせていただいたどの方にも勝るとも劣らぬ、ユニークな仕事観をもって看護師として仕事をしている方でした。
「柔軟に固執せずに、尊重して受け入れる」が信条だと語った通り、柔軟に相手を受け入れる姿勢のインタビューから、たくさんの看護師さんたちの働き方と思いを知ることができました。 またいつか、ナース専科のライターにも戻ってきてくれる日を夢見て。新しい精神科訪問看護ステーションの立ち上げに向けて、頑張ってくださいね!
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