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急変時の対応
患者さんのちょっとした異変を、急変サインとして早期にキャッチできればと願うナースは多いはず。そうした能力は個人の経験や感性によるしかないのでしょうか。
初めに、急変の前兆に気付く観察力を高めるための方法論について解説します。
急変の発生は予測できる!
急変前に起こる何らかの徴候を見逃してはいけないことは、誰もがわかっていることです。でも実際は、患者急変の多くのケースで意識が消失するまで気付かず、急変という事態に至っています。そして、緊急事態が起こった後で、「そういえば少し様子が変だった……」と振り返るのです。
これまで急変対応というと、BLS、ACLSといった急変に至った後の救命技術が中心に語られてきました。もちろん、これらの蘇生術は救急対応として必須ですが、多くのケースでは異変前に「危険な徴候(サイン)」が患者さんに現れています。実際、実に60~70%の症例で心肺停止の6~8時間前に何らかの前兆が認められるということが、複数の論文によって報告されています。
つまり、徴候に早期に気付いて必要な処置を実行することが、重篤化を回避し、患者さんの生命を守ることにつながるわけです。急変の最初の対応は、これまでの概念よりも幅広く、「急変」として発見する前の、その変化の「気づき」から始まっています。
Step1 正常な状態を知ることから気づきは始まる
気づきは具体的な症状というよりは、「何か変」「いつもと違う」といった、漠然としたいわば第六感のようなものです。例えば、これまで呼吸苦を訴えたことのない患者さんが「ちょっと息苦しいんだよね」と言ったり、今日に限って上着を着ている、肩が上がっている、テレビを見ている姿勢が違うなど、実はとても些細なことなのです。
その場面だけを見れば、取り立てて気になる状況ではないのですが、それまでの患者さんの様子と比較すれば、今までにない変化であることに違いありません。 看護師がこの変化をキャッチするには、いつもの患者さんの様子、その患者さんにとっての正常な状態を理解しておくことが大前提となります。それを知らなければ、「何か変」とは考えられないからです。
もちろん、バイタルサインも一般的な正常値ではなく、その人にとっての常時の値が基準になります。原疾患によっては特徴的な症状が出現しにくいことや、治療の影響などもあるので、患者さん個々のベストな状態を把握した上で、観察・評価することが必要です。
Step2 キラーシンプトムを見極めろ!
呼吸不全や循環不全・ショック、中枢神経障害、代謝不全といった急変や死に結びつく可能性のある危険な徴候を、キラーシンプトム(注)と言います。
看護師が患者さんと接するとき、最初にチェックするのがこのキラーシンプトムの有無で、「迅速評価」(Step3で解説)によって、呼吸の異常、末梢循環の異常、外見と意識の異常から判断します。
呼吸の異常を看る
・24回/分以上の頻呼吸や明らかに不十分な呼吸、努力様呼吸
・吸気/呼気時の異音・雑音
・動脈血酸素飽和度(SpO2)の急激な低下
末梢循環の異常を看る
・皮膚の蒼白、末梢のチアノーゼ
・冷感(敗血症では温感)、冷汗
・ブランチテストで赤みが戻るまで2秒以上
・頸動脈の脈拍が弱い(心肺停止の可能性)、橈骨動脈や大腿動脈(鼠径部)の脈拍が弱くて早い(ショックと判断)
外見と意識の異常を看る
・呼びかけに無反応、呂律が回っていない、朦朧としている
・表情や姿勢など全身から感じる印象
(注) キラーシンプトムとは、日本医療教授システム学会「患者急変対応コース for Nurses ガイドブック」の中で創造した造語で、“急変に結びつく危険な徴候” の意味です。
キラーシンプトムの観察ポイント
[呼吸]
・胸郭の動きが視認できるか?
・呼吸に伴う音は聞こえるか?
・呼吸に伴う空気の出入りを感じるか?
・呼吸数の異常はないか?
・努力様呼吸をしているか。呼吸補助筋(胸鎖乳突筋など)を使って呼吸をしているか?
・パルスオキシメーターが装着されている場合、SpO2に異常はないか?
* 聴診器を使わなくても呼吸音の異常が聞こえる場合は呼吸困難を考える。
[循環]
・顔面や皮膚の蒼白、冷感、冷汗はあるか?
・末梢循環不全はあるか?
・体表温度は?
・脈は触れるか。脈拍の強さ、速さは?
[外見と意識状態]
・苦悶様の表情をしているか?
・周囲に無関心か?
・意識レベルが低下しているか?(呼び掛けに対する反応がいつもより悪くないか)
・呂律が回らないか?
・ 朦朧としている、興奮状態、不安などの意識内容の変化はあるか?
*これらは急変の徴候と判断する。
Step3 具体的にはどんな見方をすべき?
患者さんの観察・評価は、迅速評価→一次評価→二次評価の順番で行います。迅速評価の結果によって、直ちに次の段階へ進みます。
[1]危険な徴候のある場合(意識・呼吸が十分でない)は、応援と医療チームの派遣要請をしてBLSを実施する。
[2]危険な徴候があるものの呼吸・循環は維持されている場合は、応援要請して酸素投与、救急カート・モニターの手配をした後に一次評価を実施し、その結果、状態悪化が予測されれば、医療チームに報告して派遣要請する。
[3]危険な徴候がない場合は、評価者が必要と判断すれば一次評価、そして二次評価を実施する。
この評価方法を習慣化すると、危険な徴候だけでなくバイタルサインの変化も早期にキャッチできます。
迅速評価:キラーシンプトムの有無の判断
最初に患者さんに接したときに、五感を用いて数秒間で行う評価を「迅速評価」と言います。迅速評価は、患者さんの様子を目で見て(視覚)、耳で聞いて(聴覚)、手で触って(触覚)行います。
例えば朝、病室に入って患者さんの様子を観察して感じる、「呼吸が荒い」「肩で息をしている」「元気がない」「顔色が悪い」「手が冷たい」「視線が定まらない」「目線が合わない」「皮膚が紅潮している」「胸を痛がっている」などの、血圧計や聴診器などを使わずにわかる、印象や感覚を指します。
次のページでは「一次評価」「二次評価」について解説します。
一次評価:ABCDEの評価
迅速評価で「BLSの必要はないか、生命の危機につながる危険な徴候はある」場合、次に行われるのが一次評価です。ベッドサイドで使える器具やモニターなどを用いたフィジカルアセスメントで、原則としてABCDEの順番に行い(※心肺蘇生ガイドライン2010でABC→CABに変更)、それぞれのステップで異常があれば直ちに対応します。つまり、一次評価では評価・判断と救急対応が同時に進行することになります。
一次評価は心肺停止の近接性を判断するもので、これを終了した時点では、患者さんは現在のままの状態で継続観察するか、何らかの処置に移るための準備に入ります。この段階で医師へも報告します。
A――Airway 気道
B―― Breathing 呼吸
C ――Circulation 循環
D―― Disability 中枢神経
E ――Exposure 脱衣と外表、体温
※心肺蘇生ガイドライン2010でABC→CABに変更
二次評価:SAMPLEの評価
二次評価とは、患者さんが危機的状態を脱した時点で実施する、病気・情報の収集や診察を言います。一次評価のプロセスで患者さんの呼吸と循環の安定が図られたら、急変に先行するエピソードや病歴を聴取し、急変についての患者情報を収集します。
S――Signs and Symptoms 徴候と症状
A――Allergy アレルギー歴
M――Medication 薬物療法の情報
P――Past medical history 既往歴
L――Last meal 最後の食事
E――Event leading to presentation イベント
Step4 日常的に“変化” をこうとらえる
気づきの能力をアップさせるために最も大切なのは、「変化を変化としてとらえる」ということです。患者さんの状態が急激に変化することがあまりない一般病棟では、その変化をやり過ごしてしまいがちですが、日頃から次のような視点を持ってキャッチする能力を高めていきましょう。
シミュレーション学習で模擬体験を重ねる
異変に気付けるようになるには、臨床実践に近いシミュレーション学習によって状態変化を早期にキャッチする訓練を重ねるのが効果的です。すぐに実行というわけにはいかない場合には、受け持ち患者さんの状態を前日の数値と比較するなど、日常的に評価を振り返る、いわば記録を使ったトレーニングを開始してはどうでしょうか。
例えば、患者さんの表情が少し苦しげだと感じたらそのままにしないで、ほかに情報がないか確認します。呼吸や脈が速い、胸が痛い、前日に嫌な思いをした、などいくつかの情報を得ることで、苦しげな表情の場合には、ほかにどこを観察すればよいのか、自分の中にパターンができてくるはずです。
*次ページは「急変の気づき方」について解説します。
急変するとしたら何が起こりうるかを考える
併せて、勤務に入る前に担当している患者さんについて、もし急変するとしたらどのような変化が起こりうるのかを考えることも重要です。どんな状況でどういった症状を呈するのか、その場でどのように対応するのか。シミュレーションをしておくことで、仮に急変しても大きな混乱は避けられるはずです。
「何か変」の報告は日常的に
何か変と感じたことの多くは大事には至りませんが、それでも自分が感じたことはそのままにせず、先輩やリーダーに報告しましょう。経過観察できる上、観察すべき点やアセスメント評価までを指導してもらえます。入院患者さんは日々変化しています。もし「いつも変化なし」と感じるのであれば、それは見えてないからだけかもしれません。
生命維持への観察力を強化する
自分が所属している病棟の特徴的な疾患に対しての観察はできても、それが生命維持の観察となるとどうでしょうか。必ずしも十分とはいえない傾向にあるなら、危険予知訓練(KYT)などを通して、生命維持に関する観察力を強化しておくことも大切です。
[変化をとらえるには]
●「いつもと変わったところはないか?」という意識を持って患者さんをみる
●「呼吸」「循環」「外見・意識」の視点を持って患者さんを観察する
●「昨日のデータ(数値)と今日のデータに変化はないか?」と比較する
繰り返し実践することで気づきの能力も向上。気付くための意識と行動が身に付く!
(「ナース専科マガジン」2012年6月号より転載)
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