
気管挿管が行われる場面は大抵が緊急であり、挿管後はモニターのアラームが鳴り響くなか、複数のスタッフがテープ固定や吸引の準備で同時に動いている慌ただしい状況です。焦ってしまうかもしれませんが、挿管後に聴診を行う目的を理解し、「何を、どの順番で確かめるのか」を整理しておくことで、緊迫した現場でもスムーズに対応できるようになるでしょう。
挿管後に聴診を行う目的
挿管後に聴診を行う主な目的は、「食道挿管ではないか」「片肺挿管ではないか」を確認するためです。
気管挿管では、挿管チューブを口腔から挿入し、咽頭、喉頭、声門を通過して気管へ進めます。気管は左右の主気管支に分かれますが、解剖学的に右主気管支は左よりも太く、短く、垂直に近いため、挿管チューブが深く入りすぎると右主気管支へ迷入しやすい特徴があります。右主気管支に迷入した場合、右肺では呼吸音が聴取できるにもかかわらず、左肺の呼吸音が弱くなったり聞こえなくなったりします。
一方、挿管チューブが気管ではなく食道に入ってしまった場合は、換気した空気が胃へ流れ込み、心窩部で送気したときに音が聞こえることがあります。また、食道に挿管チューブがあるため、呼吸音は両肺で減弱または消失します。
食道挿管と片肺挿管のいずれも、患者さんにとって致命的かつ重大なリスク(合併症)です。これらを聴診によって早期発見・回避することが非常に重要です。
聴診を行う順番
心窩部を聴取
聴診器を最初に当てるのは、胸部ではなく心窩部です。これは致命的な結果を招くリスクが高い食道挿管をできるだけ早く見抜くためです。補助換気した際に、以下の所見がみられた場合は食道挿管を疑います。
- 心窩部で明らかな送気音が聞こえる
- 胸郭の上がりが乏しい
- 呼気終末二酸化炭素分圧(EtCO₂)波形が出ない
食道挿管が疑われる場合は、確認した所見をその場で声に出して医師へ伝え、挿管チューブの抜去と再挿管の準備に移ります。換気ができない状況が続くと致命的となりますが、挿管チューブを抜いて補助換気し直せば回避できる合併症です。そのため、まずは心窩部を聴取し、食道挿管の早期発見に努めます。
左右の肺野を同じ高さで聴取
肺野を聴診する場合は、左右の胸部を一組にして同じ高さ(左右対称の位置)で聴診します。右胸(右前胸部・右側胸部)だけ、あるいは左胸(左前胸部・左側胸部)だけを聞いてアセスメントするのではなく、右前胸部を聴診したら同じ高さの左前胸部を聴診し、同様に右側胸部を聴診したら必ず同じ高さの左側胸部も聴診するという進め方で、左右差を比較しながら聴診していきます(図)。
図 聴診を行う順番と肺野の聴診位置のイメージ

例えば、右胸の呼吸音がよく聞こえていても、左胸の呼吸音が明らかに弱い場合には、右主気管支挿管(片肺挿管)を疑います。挿管チューブが深く入りすぎている場合は、右肺だけが換気されて左肺が十分に換気されないため、左胸の呼吸音の低下や胸郭挙上の左右差がみられるほか、SpO₂が十分に上昇しないことがあります。左右を対比して聴診することが、片肺挿管の可能性をアセスメントすることにつながります。
継続的な聴診の実施
聴診は挿管直後だけで終わりにせず、適宜実施していくことが大切です。例えば、挿管チューブの位置は胸部X線で確認しますが、挿管直後は問題がなくても、ポータブルX線撮影時に体位や顔・首の調整をした際に、挿管チューブの先端位置が動く可能性があります。そのため、適宜聴診をして挿管直後と変わりないことを確認します。
ほかに、頭側挙上や体位変換を行ったとき、清潔ケアやリハビリテーションを実施したあとは、挿管チューブの先端位置が深く入ったり浅くなったりする可能性があるため、適宜聴診を行います。
挿管後の聴診は、聴診する順番を決めておくことで慌ただしい状況でも見落としを防げる観察技術です。挿管直後は、経験が豊富なスタッフでも緊張します。判断に迷ったり違和感を覚えたりしたときは一人で抱え込まず、周囲の看護師や医師と一緒に確認することも大切です。
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