医療者が患者の治療・ケアを行ううえで、患者の考えを理解することは不可欠です。しかし、看護の現場では、複数の患者への治療や処置が決められた時間に適切に実施されなければならないことが日常的です。また、心身が辛い中で療養している患者は、忙しそうに働いている看護師に対して、自分から治療や生活上の悩みや困難を訴えるのも勇気のいることでしょう。
そこで、患者の病いの語りをデータベースとして提供しているDIPEx-Japanのウェブサイトから、普段はなかなか耳にすることができない患者の気持ち・思い・考えを紹介しながら、よりよい看護のあり方について、読者の皆さんとともに考えてみたいと思います。
かつて「がん告知」といえば「死の宣告」と受け止められた時代には、本人には本当の診断は伝えられず、家族だけが知っている、といったことがよくありました。
検診技術の発展でがんが早期に発見されるようになったことや、患者の自己決定が重要視されるようになったことから、最近ではがんの患者に病名を告知することは珍しくなくなりました。代わって浮上してきたのが予後情報の提供、俗にいう「余命告知」のあり方の問題です。
患者の意思決定に結びつくような情報提供を
医師はがん告知の際に、診断の結果とそこから考えられる治療法の選択肢、期待される効果と予想される副作用や費用など、様々な情報を患者に提供します。
その際、5年生存率や期待余命についての情報まで、一度に提供すべきかどうかは、なかなか判断が難しいところです。検診でがんが見つかったある男性は、聞いたわけでもないのに一方的に生命予後を告知されたことに不快感を表しています。
65歳で前立腺がんの診断を受けた男性(インタビュー時69歳)
おそらく医師は一般論として5年生存率を情報として提供しただけなのでしょうが、この人は医師が保身のために「あなたが5年以内に亡くなることがあっても、ちゃんと情報はお伝えしてありますからね」と言ったように感じています。
まるで自分の命に値札をつけられたような気持ちになったのかもしれません。
看護師がこうした情報提供の場に立ち会ったり、別室で患者の疑問や不安に対応したりする際には、情報の受け手である患者がこのような思いを抱いているかもしれないことに、想像力を働かせて、声掛けをすることが大切です。
同じ「余命告知」を受けた人でも、次の女性のように医療者の言葉に励まされて、これから先の自分の人生を考えるために、自ら教えてほしいと申し出た人もいます。
39 歳で乳がんの診断を受けた女性(インタビュー時45歳)
このように何らかの目的を持って余命を知ろうとする人にとっては、単なる統計データも意味のある生きた情報となります。
しかし、あえて知りたいと思っていない人が、一方的に統計的事実として余命を伝えられるとき、それは「生きた情報」ではなく「死の宣告」になってしまいます。
患者に正しい情報を提供することは医療者の務めですが、単なる手続きとしてそれをするのではなく、その情報がその人にとってどのような意味を持つのか、その人が納得できるような自己決定の手がかりになりそうか、といったことに思いを馳せることが大切なのです。
「健康と病いの語り ディペックス・ジャパン」(通称:DIPEx-Japan)
「NPO法人 健康と病いの語り ディペックス・ジャパン > 前立腺がんの語り」より
英国オックスフォード大学で作られているDIPExをモデルに、日本版の「健康と病いの語り」のデータベースを構築し、それを社会資源として活用していくことを目的として作られた特定非営利活動法人(NPO法人)です。患者の語りに耳を傾けるところから「患者主体の医療」の実現を目指します。
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