
講師:中井 章人(なかい あきと)
日本医科大学多摩永山病院副院長/女性診療科 産科部長

座長:嶋森 好子(しまもり よしこ)
東京都看護協会 会長
2015年7月20~22日、「第11回ICM*1アジア太平洋地域会議・助産学術集会」がパシフィコ横浜にて開催されました。今回のテーマは「すべての妊産婦と赤ちゃんに助産師のケアを。」
各国から多くの助産師が集まるなか、22日に行なわれたクロックミップセミナー*2「子宮収縮薬を用いた陣痛誘発と陣痛促進の注意点」をレポートします。
安全に子宮収縮薬を使用するために
子宮収縮薬を用いた陣痛誘発と陣痛促進は、過期妊娠の予防など胎児や母体を守るために必要不可欠な治療です。しかし一方で、子宮収縮薬が直接的な原因とは限らないものの、投与例において児や母体死亡、脳性麻痺児など重篤な症例も報告されています。
こうした現状を踏まえ、今回のセミナーでは、臨床で産科医を務めるとともに、産科医療補償制度原因分析委員会で脳性麻痺の原因分析を行っている中井章人先生が、安全に子宮収縮薬を用いるためのポイントについて解説しました。
中井先生は、まず、「産婦人科診療ガイドライン―産科編2014」(以下ガイドライン)をもとに、子宮収縮薬(表1)の適応、使用のための条件、使い方を説明し、それらの遵守には子宮収縮薬の重大な有害事象・副作用である過強陣痛*3の予防という意義があることを示しました。
表1 日本で認可されている子宮収縮薬

*:輸液ポンプなど精密持続点滴装置を用いる
過強陣痛を起こせば、母体・胎児ともに強いストレスがかかり、子宮破裂、胎児仮死などさまざまな障害を引き起こしかねません。
そこで子宮収縮薬の投与開始前と投与中は、分娩監視装置を装着し、胎児心拍数陣痛図(CTG)*4による胎児心拍数と子宮収縮の連続モニタリング、血圧や脈拍数の定期的なモニタリングを行うことが重要となります。
中井先生によれば、産科医療補償制度の事例分析では、CTGの連続モニタリングが行われていなかったケースや判読が不十分でドクターコールをしていなかったケースが非常に多く、なかでも、内服薬のプロスタグランジンE2使用の場合、ガイドラインに記されているにもかかわらず、CTGの連続モニタリングが実施されていたのはわずか2割だったといいます。
意外に多い輸液ポンプにかかわるミス
そこで中井先生は、実際の症例のCTGを用い、脳性麻痺に至った経緯を解説しました。症例として、遷延一過性徐脈を一過性徐脈と誤判読した例、胎児心拍が途中から母体心拍に置き換わっていた例などがあげられ、起こりがちな見落としに、時折、会場からはどよめきが起こりました。
さらに中井先生は、子宮収縮薬の使用時において、実際に起きたインシデント・アクシデントを紹介しました(図1)。最も多いものは、指示以外の溶液に混注するケースで、5 %糖液やリンゲル液、あるいは生理食塩液以外の溶液を使用してしまうケース、また点滴薬を静脈にボーラス注射あるいは筋肉注射してしまうなどだといいます。
図1 子宮収縮薬使用時のインシデント・アクシデント
そこで意外に多いのが、輸液ポンプにかかわるミスでした。特に危険なのは、ローラークランプを閉めずに輸液ポンプから輸液セットを外したときに起こる、フリーフローによる薬液の急速投与。また、チューブのへたりやセットミスによって流量に誤差が生じてしまうミスも起こりがちです。これらはいずれも、投与量や速度を厳密に管理しなければならない子宮収縮薬では、避けなければならないエラーです。
「最近では、フリーフロー防止機構や誤装着防止システムのついた輸液ポンプも出ています。こうした機器を積極的に使用することで、安全な投与量を維持・管理できます」と説明し、例としてセーフテックR輸液ポンプFP-N11(図2)を紹介することを通して、安全管理上、こうしたセーフティ機能の充実した医療機器を使うことの重要性を伝えました。
| フリーフロー防止機構「クランプリンク®システム」、チューブのへたりを低減し72時間連続運転を可能にした「3Dプレス®方式」、誤装着防止機構「ラインセキュア®機構」を備える。 |
図2 セーフテック®輸液ポンプFP-N11
よりよく安全な出産環境のために
続けて中井先生は、子宮収縮薬の投与量が基準から逸脱して使われているという問題にも言及しました。
実は、先の事例分析(脳性麻痺の症例)において、子宮収縮薬の使用基準が守られていたのは23%にしか過ぎませんでした。この件について中井先生は、指示を出す医師に責任があるとしながらも、会場の助産師に次のように激励のメッセージを送りました。
「使用基準を逸脱した投与指示であれば、助産師の皆さんが医師に意見すべきです。皆さんは私たち医師と協働して仕事をしている専門職であり、医師のアシスタントではありません。ぜひ助産師という役割を果たしてください」
最後に、座長の嶋森好子さんも「助産師への期待を感じました。私たちが患者さんにとって、よりよく安全に出産ができる環境をつくっていきましょう」と結び、セミナーは盛況のうちに終了しました。
*1 ICM:International Confederation of Midwives 、国際助産師連盟
*2 クロックミップセミナー:助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)レベルⅢ認証申請のための必須研修会
*3 過強陣痛:過剰に強く頻回に起こる異常な陣痛。胎児機能不全の原因となる
*4 CTG :cardiotocogram、胎児心拍数と子宮収縮を併列に経時的に記録したもの
(『ナース専科マガジン』2015年11月号から改変利用)
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