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血友病患者さんが本当に困っていることをどう引き出し、どう支援する?【PR】

2020.04.02
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田中 智恵子(たなか ちえこ)

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血友病という疾患について

血友病は、出血を止める血管・血小板・凝固因子の3要素のうち、血液凝固に必要なタンパク質(凝固因子)をつくる遺伝子の先天的な異常により、出血傾向を示す疾患です。約12種類ある凝固因子の中で第Ⅷあるいは第Ⅸ因子が質的・量的に欠損することで生じ、前者を「血友病A」、後者を「血友病B」と呼びます。

X連鎖劣性遺伝形式*をとり、発症するのはほとんどが男性で、発症頻度は男性1万人に1人の割合であることが報告されています。母親が保因者(XX’)の場合、2分の1の確率で血友病に関係するX’染色体を受け継ぎ、男児は血友病、女児は保因者になります。父親が血友病(X’Y)の場合には、男児はすべて正常、女児はすべて保因者となります。ただし、血友病患者の約30%は家族歴のない孤発例といわれています。

血友病では、第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の働き(活性)がどの程度であるかを示す「凝固因子レベル」によって重症度が決まります。凝固因子活性が健常人の1%未満のものを重症型、1〜5%未満を中等症型、5%以上を軽症型に分類しています。

*X染色体上に位置する遺伝子は性染色体Xを介して遺伝していきます。これらの遺伝子に何らかの異常があった場合、XXである女性はもう一方のX染色体が正常であれば発症せず、保因者となります。保因者の子どもが男児である場合は2分の1の確率で遺伝します。このようにX染色体を介して隔世的に遺伝することをX連鎖劣性遺伝または伴性遺伝といいます。

【主な症状】

目に見えない部位からの出血が多いことが特徴的で、血腫が周囲の神経や血管を圧迫して痛みや障害を引き起こします。特に関節内や筋肉内は出血が起こりやすく、同じ関節に出血を繰り返すと関節組織の損傷による変形や関節の可動域の制限(血友病性関節症)が生じ、日常生活に支障をきたすようになります。頭蓋内、口腔内、消化管などでも出血が起こります。

【治療】

1960年代半ばまで、血友病は輸血か安静しか治療法がなかったため、若くして亡くなる方も多く、早死にする痛い病と言われることもありました。半世紀が過ぎた現在、血液凝固製剤の進歩で病態は格段に改善し、健康な人と変わらない生活が送れるようになってきました。治療の基本は不足している凝固因子を補充する補充療法で、凝固因子製剤を静脈内注射します。補充療法には、出血時補充療法、予備的補充療法、定期補充療法があり、なかでも定期補充療法は、血友病性関節症を早期から予防するために普及が進んでいます。この療法は注射回数が多くなるという問題もありましたが、最近では半減期延長型製剤(効果が長くなった薬)が開発されたことで、投与回数が減り、患者さんの負担も軽くなりました。さらに投与回数が少なく、皮下投与でき、凝固因子と同様のはたらきをする抗体製剤も開発されて、患者さんのライフスタイルに応じた選択肢が広がっています。

患者さんが本当に困っていること・悩んでいること

治療法が進化した現代において血友病患者さんの課題はなくなったのでしょうか。そんなことはありません。製剤の効果が十分でない時代を経験している方は既に関節が悪くなっています。乳幼児でも主な治療法は注射のままです。遺伝性であること、社会の理解が十分ではないことなど、患者さんの課題は年齢、年代や個人によっても異なり、残っています(図1)。ところが患者さんの中には、これらの課題を悩みとしてあまり意識していない方がしばしばおられます。血友病―特に重症の方―は物心ついた頃からの付き合いです。例えばラッシュを避けるために早朝に通勤したり、外出には注射セットを持参したり、エレベータやエスカレータの設置場所をあらかじめ把握したりするといった生活が当たり前になり、やがて不便さを意識しなくなるからです。慣れだけではありません。「自分は工夫して乗り切り病気に負けていない」などの患者さんの自負や「できないことは考えない」という気持ちの切り替えの巧みさもあるでしょう(図2)。これは決して悪いことではありませんが、相談すれば軽減できる課題も隠されて放置される危険があります。血友病患者さんの表面化しにくい課題を拾い上げ、支援していくには、丁寧に聴き取り、一緒に考えていく姿勢が必要になります。

図1 血友病患者さんのライフステージごとの課題

血友病患者さんのライフステージごとの課題

課題を引き出す声かけのヒント

そこで大事になってくるのが「雑談」です。基本は相手の話したい話題を、興味をもって聞くこと、<疾病>ではなく<患者さん自身>に興味をもって傾聴することです。単に「体調はどうですか?」よりも「昨日は寝つけなかったみたいですね」、「痛むと言っていた足首の具合は、どうですか?」と声かけができれば、患者さんには医療者が、自分をわかろうとしているのが、より感じられることでしょう。医療の場で話すのですから、きっかけは体調や治療でよいでしょうが、それにこだわることはありません。趣味やこれからやってみたいこと、生活の工夫の話題もよいでしょう。人は自分の好きなこと、興味関心のあることになるとよく話します。趣味の話の中で「注射するのをつい忘れてしまう」などの声が聞かれることもあります。いずれにしても患者さんの日常を知ることが、一緒にアプローチ方法を考える第一歩になります。

改善・解決に向けての提案の仕方

医療者なので、話を聞きながら直ちに提案や助言が浮かぶことも多いでしょう。しかし、解決法を実践するのは患者さんで、自分で決めてもらうことが大切なのです。ここでは会話を通して患者さんの悩みごとを一旦広げて、一緒に整理し、一番に取り組む課題を話し合ってください。もちろん専門家としてさまざまな解決法の長短を伝えることは必要ですし、一度選択したからといって二度と変更できないわけではないことも付け加えておきましょう。

「自分は専門ではないので、新しい治療のことにも詳しくない。患者さんと話すのは腰が引けてしまう」という方もいるかもしれません。知らなくてもかまいません。わからないことは「一緒に調べましょう」と伝え、患者さんが何に困り、どう解決しようとしたのか、できたことやできなかったことなどを整理していくだけでも、患者さんの支援になりますし、医師の診察時の助けになります。

チーム医療と情報共有

医療の複雑化・高度化に伴い、臨床では多種多様なスタッフが連携して患者さんのケアにあたることが求められています。血友病では特に心理的・社会的な課題もあり、多職種の連携「チーム医療」が必要と言われています。「チーム医療」では「ほうれんそう」をはじめ、情報共有の重要性が叫ばれています。それはとても大切なことなのですが、患者さんにしてみれば、話したことが知らないところで拡散することを不安に感じる人も少なくありません。基本的に治療に直接関係のないことは個人情報保護の観点から拡散を防ぐことは重要です。

ただ患者さんは関係がないと思っていても、実は治療に影響するような事象はどうすればよいでしょう。例えば本人は治療とは無関係に思いつつ「内緒ですが転職するかもしれません」と言ったとします。転職して健康保険組合が替われば、特定疾病療養受領証の更新もいりますが、忘れれば自己負担額が生じる危惧もあります。内緒のままでいるよりはソーシャルワーカーと情報共有したほうがよいでしょう。でも「内緒です」と言われています。ここでは医療者が伝達について勝手に判断するのでなく、本人に聞くのが一番です。伝達したい理由を説明すれば、納得していただけます。こうしたことの積み重ねが信頼感を醸成していくことにつながります。

血友病患者さんのケアにあたる看護師に知ってほしいこと

血友病は、患者数が少なく、見た目ではわかりにくい障害をもつ特殊な疾患です。生まれてからずっと血友病と付き合い、淡々と薬だけを処方してもらって、「特に問題はありません、普通です」と言って帰る方も少なくありません。放っておいてほしいと考える方もいますが、そのような人でも心の底では自分の病気と状況を理解してほしいと願っていることが多いのです。ましてほとんどの患者さんは関心を向けてもらうことが不快にはなりません。血友病患者さんは年を追うごとに関節が悪化したり、輸注が困難になったり、介護や被災時の医療を不安に思ったりなど、課題が増える、あるいは変化します。診察時間の限られた医師を補完すべく、看護師さんも興味をもってかかわっていただければ嬉しいです。たとえ、最新治療など知らなくても一緒に困ったり、課題を整理していただければ、患者さんの生活は豊かになっていくことでしょう。

図2 血友病患者さんの工夫で乗り切ってしまう不便

血友病患者さんの工夫で乗り切ってしまう不便
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