心不全による喘鳴の病態生理(心原性喘息)
心不全患者さんに新たに喘鳴がみられた場合、その原因は必ずしも気管支喘息とは限りません。
心不全の増悪により左室拡張末期圧が上昇すると、その圧は左房から肺静脈・肺毛細血管へと伝播し、肺うっ血を来します。一般に、肺毛細血管楔入圧(PCWP)あるいは左房圧がおおむね18mmHgを超えると間質性肺水腫が出現し、25mmHgを超えると肺胞性肺水腫へ移行するとされています。
その結果、気道壁の浮腫化と内腔狭小化、肺コンプライアンス低下、呼吸仕事量の増大が生じ、吸気・呼気の双方で高調な笛声音(wheezes)が聴取されることがあります。これがいわゆる心原性喘息です1)。
心原性喘息と気管支喘息の違い
気管支喘息は、気道炎症および気道過敏性亢進、気道平滑筋収縮を主因とする非心原性の閉塞性換気障害です。
一方、心原性喘息は、心原性の肺うっ血と間質性浮腫が主因であり、びまん性・左右対称性の喘鳴、体位による変動、ならびに利尿薬・血管拡張薬投与により比較的速やかに改善しやすい点が特徴です。歴史的にも、「心臓喘息(cardiac asthma)」(心原性喘息)は肺血管うっ血に伴う喘鳴として区別されてきました2)。
状態把握のためのフィジカルイグザミネーションのポイント
身体所見では、起坐呼吸、夜間発作性呼吸困難(PND)、右内頸静脈怒張などの体液貯留のサインに注目します。バイタルサインでは、血圧上昇や頻脈、呼吸数増加、SpO2低下の有無を評価し、交感神経活性化やうっ血の進行を推定します。聴診では、両側下肺野優位の湿性ラ音(fine crackles)が間質性肺水腫を示唆します。進行すると全肺野に拡大し、ピンク色泡沫痰を伴うこともあります。
心原生喘息に伴う喘鳴は仰臥位で増強し、上体挙上(High-Fowler位)やうっ血軽減で変動するのが特徴です。一方、左右差の強いwheezes、呼気延長、膿性痰や発熱を伴う場合は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や感染増悪を考慮します。
これらの臨床所見に、胸部X線やBNP/NT-proBNPなどの検査結果を統合して、病態を判断します。
呼吸負担軽減と体液管理
ケアの実践では、まず上体挙上により前負荷および呼吸負担の軽減を図ります。酸素療法は目標SpO2 92~96%を目安に行います。
また、心不全増悪予防および治療効果の評価のために、水分出納・体重・尿量の管理に加え、不要な補液の回避や、利尿薬投与後の尿量および電解質の確認が重要です。心不全と気道疾患が併存する場合には、吸入β2刺激薬などの使用によって、頻脈や不整脈が増悪しないかを観察します。
酸素投与を行っても低酸素血症が改善しない場合や、呼吸困難感が進行する場合には、非侵襲的陽圧換気(NPPV)の導入について主治医に相談します。NPPVの早期導入により、呼吸困難感の軽減やガス交換の改善が期待できます。
引用文献
1)Ware LB,et al:Clinical practice. Acute pulmonary edema.N Engl J Med 2005;353(26):2788-96.
2)Jorge, S,et al:Cardiac asthma in elderly patients: incidence, clinical presentation and outcome.BMC Cardiovasc Disord 2007;7:16.
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